『アムール川流域からモンゴル西部に渡る地域より 1950 年代に発見された数点の文献から、1860年代から1890年頃にかけ、「ニエカレクチワ」と呼ばれる渡り鳥を崇拝する団体が存在していたことが分かり、そのリーダーとして「ウチヤリムッシュ(鳥に憑かれた男)」と呼ばれる男の存在が明らかになった。以後彼は西洋の歴史家の研究対象となった。1970年代になるとニエカレクチワは鳥の鳴き声を用いてある種の音楽を奏でていたことが判明し、数名の音楽家にも研究への協力が要請された。私自身声がかかったうちの 1 人である。
文献によるとウチヤリムッシュは鳥の鳴き声のままに、枝で地面に特定の記号を書き並べ、それらの記号を解読することで天気や災害、はたまた家畜の死などを予見できたという。研究から、彼には絶対音感のようなものが備わっており、渡り鳥の奏でる鳴き声に応じて65種類にもわたる記号を割り振っていたことがわかった。1831年に
アルバトロサ・サラヴィエスキーの名で生まれた彼は、両親共に音楽熱心であり、幼少よりピアノの練習を強いられた。その日々に耐えかねたサラヴィエスキーは、17歳にして家を抜け出し、遊牧民の集団に加わったのである。そこで彼は渡り鳥の鳴き声と現実の出来事に繋がりを見出したようで、1853年になるとニエカレクチワを結成し、以後占い団体として名を馳せていく。彼が地面になぞる記号たちは、渡り鳥の鳴き声の音の高さをそのままに写したものであるが、彼は幼少より使用を強制された音階には嫌悪を抱き、独自のより複雑な音記号を編み出していったのであろう。
私は執筆中の著書
「一般音楽史入門」においてぜひ彼の人生に触れたいと思っている。彼もまた立派な音楽家であり、後世に伝わっていくべきであるからだ。』