Isabella Frost

1985- | SWEDEN

西垣龍一によるイザベラ・フロスト

このサイトは、スウェーデン出身の若き作曲家イザベラ・フロストを紹介する日本語ページです。2022年《Curling Music》という奇妙な作品によって突如として世界に知られることになった彼女の正体に迫るべく、「経歴」「作品」そして研究やインタビューなどの「テクスト」を掲載します。

経歴

フロストは 1985 年、人口約 5000 人の小さな町ハーモニーヴィル(Harmonyville)に生まれたスウェーデンの作曲家。

ハーモニーヴィル生まれの父ラーズと、イタリア出身の母ソフィアのもとに生まれた。彼女は幼いころから音楽的才能を発揮したが、音楽学校には通わず、独学の神童とよばれた。最初期の注目すべき作品は 17 歳の時に書かれた《Melodies of Twilight》である。このピアノ曲の幻想的かつ内省的なメロディーは、彼女の才能を示すものである。

彼女の初期作品としてよく知られる《Whispering Breeze》(2008)および《Dancing Raindrops》(2012)はこの時期の作風を端的に示したものと言ってよいだろう。この二作はいずれもピアノ作品であり、自然の音を描写するという明確な目的をもって書かれた。こうした初期フロストに影響を与えた作曲家としてアルヴォ・ペルト(1935-)とジョン・ルーサー・アダムス(1953-)がしばしば挙げられる。《Fratres》(1977)や《Spiegel im Spiegel》(1978)などで知られるペルトのいわゆるティンティナブリ様式の作品群は、フロストに何らかのインスピレーションを与えたかもしれない。また、ジョン・ルーサー・アダムスは自然への関心を作品内に体現し続けている作曲家であり、2014 年のピュリッツァー音楽賞を受賞した《Become Ocean》(2013)で知られる。彼のアプローチもまた、フロストのそれに近似している。もちろん、このような作風の背後に 1960 年代以降のサウンドスケープ論の隆盛や、エコロジー運動の発展があることは言うまでもないだろう。

彼女の作曲のスタイルとアプローチの転換を示すものとしてもっともよく知られるのは、《Curling Music》(2022)である(作品解説参照)。この時期のフロストは、フルクサスや実験音楽への関心を強めていたようであり、この有名な作品の分野横断的なコラボレーションや社会的関与といった要素が、そうした傾向を端的に示している。あまり知られていないが、この時期にフロストはこうした作風の作品をいくつか作っているようである。《Ephemeral Reverie》(2018)は、音楽と語り、そして大型スクリーンに映し出される映像による複合的な作品である。さほど注目されなかった作品だが、《Curling Music》の4年前に作曲された作品として気に留めておくべきであろう。

近年、彼女の作品は初期の作風への回帰が見られる。《Curling Music》の名声のために世界的に注目された《Winter's Embrace》(2024)と、それに続く《Aurora Serenade》(2026)はいずれも「自然の音を作品にする」初期の傾向を引き継いだものとしか感じられない。彼女が今後、回帰的傾向を続けるのか、実験的な作風を再び取り戻すのか、それとも新たな境地を開拓するのか、われわれは注視しておく必要があるだろう。
主要参考文献

佐藤明子(2023)。「イザベラ・フロストと彼女の音楽の軌跡」、『現代音楽研究』、第15巻、第3号、pp. 72-88。

松田直樹(2024)。「イザベラ・フロストの作品における自然音の表現」、『音楽学論考』、第42巻、第2号、pp. 45-62。

Lindgren, Emma (2026). "Isabella Frost och naturens ljud: En studie av hennes tidiga och senare verk" in Musikvetenskaplig Tidskrift, vol.39, no.2, pp.57-72.

Rossi, Pietro (2025). "Il linguaggio musicale di Isabella Frost e la sua evoluzione" in Rivista Musicale Italiana, vol.78, no.4, pp.112-128

作品

テクスト

西垣龍一によるイザベラ・フロスト
|来日記念インタヴュー(日本語)

フロストは2026年9月に来日しました。その際に東京・ハルモニアホールで開催されたコンサートの中で行われたインタビュー(聞き手・西垣龍一)の書きおこしの一部を以下のPDFからご覧いただくことができます。
フロストへのインタビュー|2026年9月10日.pdf

ピエトロ・ロッシによるイザベラ・フロスト
|研究論文(イタリア語)

2025年にイタリアの音楽学者ピエトロ・ロッシによって書かれ、イタリアの音楽学ジャーナルRivista Musicale Italianaに掲載された論文"Il linguaggio musicale di Isabella Frost e la sua evoluzione"(「イザベラ・フロストの音楽言語とその進化」)の一部を、以下のPDF からご覧いただくことができます。
Pietro Rossi | Il linguaggio musicale di Isabella Frost e la sua evoluzione.pdf

参考文献:Unveiling the Sonic Journey: A Conversation with Isabella Frost