食用楽器シリーズ

田部留以|2001 -

広田依式による《食用楽器》シリーズ|解説

他の代表的な作品としては、2001年から進行している《食用楽器》シリーズがある。最初に発表された作品は、竹笛を食べることをコンセプトとしている。田部は演奏の一週間前に三本の竹笛のなかから演奏する一本をランダムで選択し、残りの二本は何とか食べられる状態へと料理し(メンマなど)、それを鑑賞者にふるまいつつ竹笛での演奏を披露したのだ。特定の事物が聴覚にもたらす感覚と味覚にもたらす感覚とのあいだにある差異ないしは共通性という問題はシリーズの続編に引き継がれているとはいえ、演奏される楽器それ自体が食の対象になってはいない以上、本作は比較的穏健であったといえる。それに対して後の作品では、タケノコに糸を付けた弦楽器や、のちにふりかけになる鰹節の打楽器といった楽器兼食材による演奏を観客に聴かせたうえで、その楽器から生じる味を事後的に経験させて演奏の印象を改変するアプローチをとることが主である。別のアプローチとして、プリペアド・ピアノを継承しつつピアノの加工に食物を取り入れた作品も、2012年以降しばしば発表している。こちらは、元フードファイターという異色の経歴を持つ音楽評論家・食田奏太郎との出会いをきっかけにして作られたもので、曲が進行するごとに食田が食べるプロセスが挟まり、それによって音が変動する仕掛けとなっている。食田はただ食べ聴くのみならず、その場で音や味についての文章を執筆する。以前はその文章が演奏後にインターネット上でアーカイブとして公開される形式を採っていたが、文章が演奏者・楽器の傍らに投影される形式が近年においては半ば定番となっている。