トーン・ジェネレーター四重奏のための小品

Howard Gilman|2016

食田奏太郎による《トーン・ジェネレーター四重奏のための小品》解説|
エッセイ「漢字で実験音楽!?——H.Gilman紹介:1」より

その名の通り、トーン・ジェネレーター、すなわち波形と周波数を指示することでその音を発生させる装置を用いた四重奏である。なんだ、周波数を指示するどこが実験音楽なんだ、ワクワクしたじゃあないか、期待を返せ!!と言いたくなるのもわからなくはないが、ちょっと考えてほしい。それは、我々が日常生活でトーン・ジェネレーター(のようなもの)を用いる瞬間がないか?ということである...そう、健康診断の一貫で行われる聴力検査である。そして通俗的なところだと、耳年齢によって聞こえる最高周波数が異なることから、耳年齢診断などにも用いられている。ここがこの作品のミソである。耳年齢(なんてものがあるのか知らないが)によって聞こえてくる音楽が異なるのである。聞き手の耳年齢という偶然性が作品に作用する、これは立派な実験音楽である。ここで注目したいことが2つある。ひとつは作品の形式性、もうひとつは作品の意図である。なお、最初の方でバイノーラル・ビートが用いられているのは、彼の遊び心によるもので、特筆に値するとは私は思わない。
少しでも⻄洋音楽の造詣のある方ならすぐにお分かりいただけるように、この作品は明らかに古典的な形式を踏まえている。さらに言えば、古典的な形式を踏まえていることを明らかに示すような書き方をしている。わかりやすく三部形式の形をとっている点、オスティナート・バスの技法を真似ている点がそれに該当する。後者に関して言えば特に、彼は最低音を担当するトーン・ジェネレーターに対して"4th tone generator"ではなく、"Bass tone generator"という名前を与えている。こうしたことから分かるように彼は明らかに古典的⻄洋音楽を意識している。こうしたやり方は、あくまでも彼自身の口から聞いたわけではなく私の憶測に過ぎないが、彼の実験音楽に対する反発を示しているように私には思われる——趣味でどのような音楽を聴くかを尋ねると彼はブラームスを好むと答えていた——そう、リストやワーグナーが率いる、当時にすれば実験的ともいえるような技法の潮流に逆らった古典主義者ブラームスのように。
ケージ以来、偶然性の音楽が溢れるこの時代、比較的偶然性に委ねられている側面が小さいこの曲を彼が作り出したのはなぜなのか。これは読者の皆様が最も気になることに違いない。私も気になったので聞いてみたところ、こういった旨の回答が得られた。「私は徹底的に、『認知により聴こえ方が異なる音楽』を追求したいと考えています。たとえば《4 分 33 秒》がそういった要求に応えるものであることは私にももちろん分かることだが、それだと不十分なのです。あまりにもさまざまな偶然性の要素を含み過ぎている。そうではなくて、認知による偶然性というものだけをパラメーターにした作品が必要なのです。」
A Piece for Tone Generators Quartet(スコア)