綿貫ひびによる髭地紀彦|プロフィール
髭地紀彦(ひげちのりひこ)は占いを操る髭地家に生まれ、幼少期から髭地家秘伝の占術を学んだ。しかしその占術の内容は天気の予知であり(詳細は後述)、当時すでにラジオで天気予報が放送されていたため、もはや役立つことはなかったようだ。
彼は中学生のころから親の影響でクラシック音楽を聴くようになる。ある日、「クラシック音楽」と呼ばれる音楽の範囲を疑問視するようになり、自分の少し前の世代の作曲家であるシェーンベルクやヒンデミット、ストラヴィンスキーなどの作品を探し求め、無調音楽を好むようになる。さらにその流れでジョン・ケージを知り、実験音楽にも傾倒した。そこで髭地は「天気」というある程度規則性はあるものの人間には完全に予測することが難しい事象と「不確定性」の概念を調和させられないかと思案し、《おてんとうさま》と名づけた一連の作品群を世に送り出した。
髭地家の占術は端的に言うと天気予報である。その起源は陰陽寮にいた下っ端の役人が下向して地方で農民として生活する傍ら、農作業のために翌日の天気を予想して当てていたところ、同じ村の人に占いだと勘違いされ、さらにちやほやされたくなって呪術的な儀式が付属した、という次第である。
実際の儀式内容としては、
①過去七日の天気をメモした紙を一日中、野ざらしにする
②その紙のシミや日焼けの様子を観察する
③その上で火にくべて煙の形を観察する
④翌日の天気を当てる
というものであった。
《おてんとうさま1》(1986)
①野外に紙を1週間放置する。
②1週間放置した紙を、初日が晴れまたは曇りなら横長に、それ以外なら縦長に持つ。
③2日目、3日目、4日目の天気を以下の対応表通りに数字と対応させ、2日目を百の位、3日目を十の位、4日目を一の位とした角度の分だけ反時計回りに回転させる。例えば、「2日目晴れ、3日目雨、4日目曇り」なら21度である。
④5日目、6日目の天気を以下の対応表通りに数字に対応させた値に関して、それぞれ1を足して掛けた値にcmをつけた距離の分だけ紙の最上部から下のところに五線を書く。そこから等間隔(第一線と第五線の間もその値の幅とする)で五線を記入する。五線は5mm間隔とする。例えば、5日目、6日目が2日連続で曇りだったとしたら、紙の最上部から44cm下のところが五線の第五線となるように五線を書く。
⑤7日目の天気が晴れならト音記号を、曇りならアルト譜表でハ音記号を、雨やそれ以外の天気ならヘ音記号を書き入れる。そして日焼けや雨のしみなど読める部分について出来上がった楽譜を演奏する。
※演奏に用いる楽器は人の声でも何でも構わないが、楽譜上に表記されている音域をカバーできる楽器が望ましい。複数人で同様にして作られた別の楽譜を同時に演奏しても構わない。
〔対応表〕
晴れ……0
曇り……1
雨……2
雪……3
その他……4
《おてんとうさま2−1》(1988)
①全く同じCDを5、6枚用意する。
②全てのCDの記録面に、虫眼鏡で集めた日光を当てて、部分的にデータを破壊する。このとき、CDによって日光で焼く位置を変えること。CDを燃やさないよう注意すること。
③こうしてできた壊れたCDを複数のプレーヤーを用意した上で同時に再生する。
《おてんとうさま2−2》(1988)
①他人の畑に吊るされているカラス除けCDを盗んできて、その日焼けしたり傷の付いていたりするCDを再生する。
②その縁でCDの盤面で占いをして返す。
《おてんとうさま3》(1989)
〔緯度帯・経度帯の抽出〕
①1回サイコロを振って1~3が出たら緯度帯、4~6が出たら経度帯を抽出することにする。
②もう1回サイコロを振って1~3が出たら北緯/東経、4~6が出たら南緯/西経を用いる。
③雨の日に紙を外に持ち出して紙に雨粒をいくつかつける。
④任意の雨粒2個を直線で結び、紙の長辺に平行な直線を始線とし、反時計回りを正とするように角度を測る。この値を含む10度ごとの階級を抽出する緯度/経度帯とする。
〔楽譜作成に用いる気象データの抽出〕
⑤サイコロを振る。緯度帯なら経度0度から1~3が出たら時計回り、4~6が出たら反時計回りに、経度帯なら1~3が出たら北極から、4~6が出たら南極から都市を抽出する。
⑥⑤で決められた方向にある国の首都の気象データ(年降水量・気温・湿度)を得る。〔気象データの音への変換〕
⑦気温を2℃ごとの階級に分ける。0℃以上2℃未満の階級をハ音に割り当て、階級が上がる/下がるごとにピアノの白鍵で1つ隣の音高に設定する。
⑧年降水量÷100秒間⑦の音高の音を伸ばすようにする。
⑨もしその地点の湿度が0%だった場合は⑧秒間休符とする。
⑩⑤の順番で⑦~⑨の音をその音が演奏できる適切な楽器(声を含む)で演奏する。
《おてんとうさま4》(1989)
①世界地図のうち任意の場所、任意の広さを選び、天気図と天気記号を調べる。
②等圧線を五線に、天気記号を音符に見立てて楽譜とし、演奏を行う。